海を見おろす山の背にまさしくそれは立っていた
その日、氷雨に煙る三角の屋根めざして
僕はまるで無口な蟻のように長い坂をのぼりつめた
祈りが終わった
そして、あたかも堰切った音の洪水のように突如パイプオルガンが鳴りわたった
古典奏法によるイタリアバロックの小品がこのコロニーで果てていった
あまりにも薄幸な女性(ニョショウ)達の情念を秘めたまま詠詠と鳴り響いたのだ
海から吹き上げてくる風は背を丸めた僕を掠めて木立の奥に消えた
足元にひっそりと咲く黄水仙
僕は山を降りた
Photo by T.matsuoka